ホライゾンブルーの夏が来る

劇場で観るきらめきと夢のはなし

「二人の男」と「一人の男」の物語―ミュージカル「マタ・ハリ」雑感

 どうも、ご無沙汰しております。

 

 気付けば前回の記事から半年以上経っていました。私自身、このブログの存在をとうに忘れていまして。途中何回か記事を書こうと画面を開いたはいいものの結局完成には至らず、その残骸は今も下書きに眠っています。そのうち何らかの形で供養したい。

 

 もう2018年も始まりまして。ここ最近は年末年始またいでメルパルクで比嘉の子にはしゃいだり豊洲の回る城に行ったりひかりふったり人生初のお茶会に行ったりそれなりに過ごしておりました。元気です。ここらへんのことも気が向いたら書きます(書かないフラグ)。

 

 まあそんな中、2月頭に、タイトルにもありますミュージカル「マタ・ハリ」を観まして。ネタバレ含む感想は良くないかなつぶやこうかなどうしようかなと迷っているうちに大千秋楽が終わり、完全につぶやく時期を見失ったと。でも自分の中で感じたことはどこかにきちんとした形で残しておいた方が後々にも良いんじゃないかと思って、今回久しぶりにここに来ました。言っても半年ぶり2回目なので殆ど初回みたいなものですけどね!

 

 本題に入ります前に前置きしておきますが、タイトルにもあるとおり雑感なのでまとまったきれいな感想ではありません。ネタバレ含みます。それと、ファンの方が見たら不快に思うようなこともあるかもしれませんのでもし読まれている方がいらっしゃいましたら自己責任でお願いします。

 

 

 

 はい。そんな感じで本題です。

 なぜこの作品を観ようかと思ったかというと、シンプルに、今回2役をされている加藤和樹さんが観たかったから。それ以外の理由はないです。同じ演目内で日替わりで違う役をやるっていうと、2013年「ロミオ&ジュリエット」でロミオ役とティボルト役をされていた城田優さんくらいしか私は存じ上げないのですが、今回その役替わりありきで加藤さんがキャスティングされたと聞いて、それならば2役観なければならないなと思い、当初一度のみの予定を増やし、加藤東、加藤佐藤の順で観ました。加藤さんは出演作品が毎回好みと合っているのもあって『1789』からほぼ毎回舞台作品は観ている(はず)程度の軽めのファンです。あとラドゥーWの佐藤さんはエリザベートで観ました。柚希さんと東くんは今回が初めて。メインのキャストについてはそんな感じ。

 

 パンフレットのインタビューで柚希さんが「マタはこれまでの自分をまるごと愛して引き受けてくれる相手と出会って本当の愛を知って死んでいく」といったような内容を述べておられましたが、私はそういった恋愛面よりもマタの強さと懸命に生きる姿というのがとにかく鮮烈に印象に残った。

 特に顕著なのがラストシーンかな。強く歌い上げる絶唱と、それをぶつりと途切れさせるように放たれる銃声。ほんとうに鮮やかに、劇的に幕が下ろされる。フランス革命ものの見すぎかもしれないけれど、処刑場に向かう人々って大体白い質素でみすぼらしい服を着て最期の時を迎えるじゃないですか。マリーアントワネットなんかはむしろそれが栄華を極めた頃と対照的になっていたりして。

 でもマタの場合は、いつもと変わらない舞台衣装で最期のステージに向かう。あのシーンがとにかく衝撃的で、終わった後はしばらくこのシーンのことを考えていた。

 

 

 感情の揺れ動きに関して私が恋愛よりも友情の方が熱く受け取ってしまうせいもあるかもしれないけれど、私はアルマンよりも最後のアンナとのやり取りの方がよほど泣けた。あの何度か繰り返されるアンナとのやり取りがずるい。

「今夜の客席はどう?」「大入り満員です」「批評家は?」「ヨーロッパ中の新聞が来てます」「素敵!」

 場面によって変わるもの、変わらないもの。彼女は最後まで「マタ・ハリ」として生きることを選んだのだなあと。アンナ役の和音さんがほんと…彼女薄幸美人系のお役(アン・ブーリンやファンテーヌ)をよく見るから猶更…ほんとうに素敵な女性で…幸せになってほしい…。

 

 キャスト発表の際、自分の中で「マタ・ハリ」というと『魔性の女=絶世の美女』というようなイメージが強く、韓国版のビジュアルも相まって正直に言うと柚希さんの持つイメージとは外れているような気がして首を傾げたのを覚えている。

 でもこのマタ・ハリは柚希さんで正解だったのだなと今なら言える。強くたくましく、それでいて美しい、自我をきちんと持った強い女性。

 誰の命令にも従わず自分を貫く生き方と強さというのが、石丸さんの描きたかったファム・ファタールだったのでは。

 柚希さんにあて書きしたのかもしれませんが、柚希さんの持つ性別に囚われないような強さは元男役というバックボーンを持つ彼女にし出せないものだろうし、マタの魅力を美貌ではなく運命に立ち向かい生き抜く「強さ」に全振りした石丸さんの演出はいいなと思います。だからこそ少女のように恋をするマルガレッタとのコントラストがはっきりするのかなとも。

 あのバキバキに鍛えられた肉体から繰り出されるしなやかな「寺院の踊り」を見ると納得。

 加えて、劇中何度も出てくる「彼女の瞳」「あなたの目」といったマタの「目」に魅せられるという表現。彼女の強い意志をあらわす瞳のその不思議な魅力に皆魅せられたのではないか。結局のところ、人を惑わす魔性の女は外見ではなくその生き方で魅せるということじゃないかと私は解釈しました。

 

 

 あとやっぱりこの作品は両方の役替わりで観た方が面白かった。特にラドゥーの違いが私は色濃く感じられました。以下ざっくり違い。

 

アルマン

 年齢的には加藤>東かな。とにかく東くんはでかい。見たままの感想でごめんなさい。屋上のシーンめちゃくちゃ手すり低そうで大変そうだなって思ってた。加藤さんはアンリ(『フランケンシュタイン』)やロビン(『レディ・べス』)などこのところ多い陽キャラ(しかし中に陰要素もある)という印象で、真新しいものはないものの引き出しがたくさんあるのだろうと思わせる役作り。ちなみに兵士にからまれてぼこぼこにされるシーンは加藤さんの方が痛そうというか、殴られ慣れてる(?)ように観えた。

 

ラドゥー

 個人的に悩み苦しむ男めちゃくちゃ好きなのでこっちの方がよく見てると思う。アルマンファンの方ごめんなさい。とにかく佐藤さんのラドゥーがかっこよすぎて第一声から鳥肌が立った。エリザの時と全然違うやん…えっ渋くていい男じゃん…。歌唱力では圧倒的に佐藤さんですね。高圧感や人生経験の深みというのは佐藤ラドゥーの方が色濃い。「二人の男」も佐藤加藤ペアの方が相乗効果でよりダイナミックな曲になっていた気がする。 対して加藤ラドゥーは悩み苦しみ葛藤し自分の心の中で揺れ動く演技がうまい

 ダークサイドのお役をされるのは初めて見るので新鮮味がある。高圧的な物言いは彼の持つ硬質な声質と合っている反面、場面によっては少し単調になるのが残念だったかも。こちらは年齢の印象は佐藤>加藤のように見えました。

佐藤ラドゥーはクールで冷静、大人の余裕のようなものを持ってマタに近付いているようで、だからこそ自身の心の軋みに深く迷う男なのかなと思いました。アフト等で既出でしたら教えていただきたいです。

 一つ言いたいんですけど、マタを誘惑するシーンの差がすごかったんですけどこれ初期からでしたか?佐藤ラドゥーはそっと腰の横あたりを撫でるのに対して加藤ラドゥー完全にマタの服の裾から手を入れて脚触ってましたよね!?ガウンをきっちり着てた佐藤さんと肩掛け+サスペンダー+着崩したシャツって…(詳しくは東くん撮影の写真を見てください)

 

 そのほかにも福井さん、百名さん、西川さんをはじめとする役者さん、そしてアンサンブルの皆さんも素敵でした。

 お名前は存じあげないのですが飛行場で女たちが歌う場面でピンクのコートを着て裏メロを歌ってらっしゃったアンサンブルの方、とても印象に残っていたのでここに書き残しておきます。

 

 

 

 最後に、この作品を見るきっかけになった加藤和樹さんの話をしてこの記事を締めたいと思います。

本編を見るまでは役替わりのすごさをいまいち理解し切れていなかったのですが、本編を見るとそのすごさが身に沁みます。すごい。すごいよ加藤さん。

自分の中で身近な役替わりというと宝塚なんかでもありますが、その場合役替わりは期間で区切られます。だから「今日はラドゥー、今日はアルマン」と日替わりで役の切り替えをすると聞いた時には本当に驚いたし、日によってはマチソワで役替わりがあるなんて恐ろしい。アフタートークで「シャワーを浴びて切り替えています」なんておっしゃっていたそうですが、それにしてもツイッターで「マチネはラドゥーでしたがこれからアルマンです♪」なんてさらっとつぶやいているのを見ると本当にすごいなと…。

 

 今作の中にはラドゥーとアルマンが互いの感情をぶつけ合う「二人の男」というナンバーがあります。マタをめぐり、立場や身分関係なく、ただそこにいる男としてのぶつかりが描かれます。私はこの物語は、マタという一人の女の物語を軸に展開しますが、そのなかに「二人の男」もまた対照的に描かれていると思っています。そんな対照的な「二人の男」の物語を演じる「一人の男」・加藤和樹がいることが、この作品の面白さであり、スパイスであり、キーであると思うのです。

 

 

 上にも書きましたが、加藤さんの役としてはアルマンは近年のミュージカルの中で演じることが多い属性の人物、反対にラドゥーは見慣れない色を持った人物という印象を受けました。これは想像に過ぎないことだけれど、どちらかだけだったら、加藤さんがこの作品に関わることはなかったのではないだろうか。いまこの時期に、どちらの役もこなすことができるイメージと実力を持つ人が彼しかいなかったから、この作品に選ばれたのかもしれないなと思ったり。

 一作品で二人の役者・加藤和樹を見られるわけですからファンとしてはお得感満載では?個人的にはラドゥーみたいな自分の立場に悩み苦しむ偉い人(ざっくりすぎるか)という悪属性の加藤さんが観てみたかったのでうれしかったです。話題性はもちろんですが、違った化学反応を起こすことができたのではないでしょうか。だからこれは加藤和樹という一人の男の物語でもある。

 

 また長くなってきましたね。

 

 まあそういうわけで、この記事のタイトルは思い切りました。作品自体、それほど刺さる作品ではありませんでしたが…役者の皆さんのパワーと力量が印象に残ったので、長々と雑感を書き連ねました。皆さんまた違う作品で巡り合いたい!唯一観る予定があるのが『1789』でして。初演で加藤さんいいなときっかけになりました思い出の(?)作品なので楽しみにしております。

 

 それではまた。